サステナビリティ

リスクマネジメント

「経営戦略リスク」と「業務運営リスク」を対象とするTRM(トータル・リスクマネジメント)体制を構築し、リスクを統合管理しています。

TRM(トータル・リスクマネジメント)

当社は、株主価値を高めるとともに、株主をはじめとするあらゆるステークホルダーの皆様に価値を提供し、持続可能な事業活動を行う使命のもと、その実現を脅かすあらゆるリスクを統合的かつ効率的に把握・評価・管理し、グループ経営に活かす組織的・体系的アプローチを行っています。当社の持続的成長にかかわるあらゆるリスクに対処するために、経営戦略・経営計画策定、戦略的なアクション、個別投資プロジェクトの決定等に伴う「経営戦略リスク」と、業務運営に悪影響をもたらすさまざまな有害事象である「業務運営リスク」を対象とするTRM体制を構築し、リスクの統合管理を行っています。

2003年度からCEOを委員長とする「TRMコミティー」を取締役会のもとに設置しています。取締役会は、TRMコミティーから提案されるTRM基本方針、TRM年次計画等の審議・決定を行うとともに、重要なリスクを管理し、事業継続のための体制を整備します。また、監査役は、取締役会がTRMに関する適切な方針決定、監視・監督を行っているか否かについて監査します。「経営戦略リスク」の評価についてはCEOが直接担当し、取締役会等における重要な経営判断材料として提供します。「業務運営リスク」についてはサステナビリティ管掌が担当し、海外を含むグループ全体の業務運営リスクの管理を行います。各事業本部、グループ会社等が行う個別のリスク管理を全社横断的に把握・確認するとともに、グループ全体で統一的な対応指針が必要なリスクへの対応を推進しています。また、マクロ環境動向については、帝人グループへの影響としてのリスクと機会の両面について、マテリアリティと関連づけて捉えています。

「収益性改善に向けた改革」によるリスクと対応

外部環境変化のスピードが加速し、同時多発的に発現するリスクに対し、レジリエントに対応するために、2023年度より、経営判断・実行を迅速化すべく、経営体制の変革を図っています。具体的には、事業本部をCEO直轄に集約し、組織階層をフラット化し、本社による事業戦略・計画の立案やモニタリング力を強化するとともに、事業本部長に決定権限のさらなる委譲を行い、実行の迅速化とリスク管理の両立を図ります。また、「収益性改善に向けた改革」におけるリスクについては、経営戦略リスクとして重点管理します。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関するリスクと対応

自動車・航空機向け用途を重点市場とするマテリアル事業領域ではCOVID-19による世界経済の影響を受け、特に炭素繊維における航空機向け需要は大幅に遅延しました。その対応策として、需要が旺盛な他用途への展開による生産稼働率の向上や販売構成の改善による収益性改善策の実行、中長期的な需要回復を見据えた航空機向け炭素繊維中間材料の新規大型プログラム獲得に向けた開発を進めるとともに、収益性のモニタリングを継続して実施した結果、航空機向け需要の回復とともに収益性が改善しています。また、2022年3月末より始まった中国のゼロコロナ政策によるロックダウンに起因したサプライチェーンの混乱、自社・顧客製造拠点の稼働停止などの影響やその後に続く低調な需要の状況を注視しました。

地政学リスクに関する対応

ロシアによるウクライナ侵攻をはじめとし、北朝鮮情勢、台湾情勢等グローバルな地政学リスクの高まりを踏まえ、グループ緊急対応体制、緊急退避プログラム、人道的支援等を整備するとともに、直接的および間接的影響を整理し、事業に与える影響を評価した上で対応を行っています。

認識しているリスク

帝人グループがTRMコミティーで重大リスクとして管理している経営戦略リスクおよび業務運営リスクの内容は以下の通りです。

経営戦略リスクの抽出・分析と対応方針

経営戦略リスクは、「マクロ環境」「市場・競合環境変化」「制度変化」「資金調達・財務健全性」「個別戦略」の5つのカテゴリーに分類し、事業戦略における既発現のリスクを含む具体的かつ最新のリスクについて、経営戦略リスクマップを用いて、「影響度」と「発現時期」および「リスクの増減傾向」の観点から分析し、緊急度や影響度に応じた対応方針を設定の上、速やかに対策に着手しています。特に2023年度は、前年度の活動レビューを踏まえ、リスク管理体制の改善点を抽出し、また、「収益性改善に向けた改革」の進捗を含み、重点管理対象と位置づけたリスクについては、より一層のモニタリングとリスク発現時の対応の強化を図ります。

経営戦略リスクの抽出・分析

経営戦略リスクの抽出・分析

経営戦略リスク:全般的リスクと基本的な対応方針

リスク項目 リスク概要 基本的な対応方針
マクロ環境リスク
  • 各国・地域の景気動向や経済状況、主要な供給先である自動車・航空機市場の動向による販売量の変動
  • 原燃料価格変動によるコスト変動
  • 外貨建て取引の財務諸表への反映および海外連結子会社の財務諸表の円換算等で必要となる為替レートの変動(対米ドル1円の円高の場合、営業利益で約3億円/年の減益影響)
  • 金利の変動による支払利息の変動
業績や財政状態に大きく影響を及ぼす可能性のあるものを中心に抽出し、アセスメントを実施しています。
原燃料価格は適正在庫水準の確保、長期契約による購入価格安定化や適切な販売価格政策、為替レートは為替予約取引等の活用や海外投資に対する現地通貨建てでの資金調達、金利については負債の長期・金利固定化を通じ、リスク低減を図っています。
市場・競合環境変化リスク
  • 競合環境の変化による需給構造の変動
  • 素材・中間材料・部品供給ビジネスにおける末端の需要動向がもたらすサプライチェーン各段階での実体経済以上の在庫調整
  • 感染症や災害、地政学的リスクの発現等による生産活動への影響や物流の停滞等のサプライチェーンの混乱がもたらす需給構造の変動





各国・地域における環境規制や保護主義の台頭などの制度変化リスクや、それらの影響も含めた市場・競合環境の変動リスクに対しては、影響する個別事業において事前にコンティンジェンシープランを作成するとともに、予兆も含めモニタリングを継続し、戦略の変更等早めの対応ができるよう準備しています。また、経済安全保障に関しては関連する情報取得を進め、危機の早期把握に努めています。

制度変化リスク
  • 温室効果ガス排出規制、プラスチック製品規制等の想定以上の強化
  • 米中貿易摩擦の再燃等をはじめとする世界的な保護主義の台頭や経済安全保障リスクの高まり
  • 国内における薬価改定等の医療費抑制政策の加速
資金調達・財務健全性
リスク
  • 経営環境の著しい悪化等で生じる収益性の低下等による、保有する固定資産についての減損損失の発生
  • 将来の課税所得の予測・仮定が変更されることで繰延税金資産の一部または全部が回収できないと判断された場合の繰延税金資産の減額
資金調達に際しては、短中期的な大規模資金需要や自己資本毀損リスクも踏まえ、財務健全性に配慮した最適資金調達を検討します。定期的に「ネット有利子負債/EBITDA」「自己資本比率」「D/Eレシオ」等をモニタリングするとともに、減損懸念資産や繰延税金資産の継続的なモニタリングを通じて自己資本毀損リスク規模を把握しています。また、運転資本管理、政策保有株式縮減等による資産圧縮を徹底しています。
個別戦略リスク
(「収益性改善に向けた改革」を含む)
  • 収益性改善の計画に対し、遅れや実施困難な状況により計画から乖離
  • 戦略に適合する案件が探索できず、設備投資・M&Aの実施が不可となる、もしくは遅延
  • 研究開発費の投入に対し、研究開発の成果が目標から大きく乖離
計画の進捗に対するKPIを設定しモニタリングを実施することで、計画からの乖離を管理しています。事業創出・拡大のための大型戦略投資案件については、事業環境を考慮した見極めや個別課題へのアクションプランを重点的にフォローしています。

業務運営リスクの抽出・分析と対応方針

業務運営リスクは、「自然災害等」「製造」「製品・品質」「法令・倫理」「情報セキュリティ」「その他」の6つのカテゴリーに分類の上、「影響度」と「頻度」の観点から最新のリスクを抽出・分析し、「気候変動リスク」「人権リスク」「情報セキュリティリスク」「地政学リスク」「安全リスク」の5項目のグループ横断的リスクを「グループ重大リスク」と位置づけ、対応方針を策定しています。

業務運営リスクの抽出・分析

業務運営リスクの抽出・分析

業務運営リスク:グループ重大リスクへの具体的な取り組み

リスク項目 リスク概要 関連するマテリアリティ* 対応策 頻度 影響度
気候変動リスク
  • 気候変動に伴う制度変更等に対応できない場合、事業継続に支障をきたす可能性
  • 気候変動に伴う自然災害の発生、例えば、マテリアル事業においては自然災害による物流の混乱、サプライチェーンへの影響、エネルギートランジションによる原燃料価格高騰等
1 気候変動を起因とする各事業における関連リスクを網羅的・体系的に把握し管理するものとし、各事業の気候変動リスク棚卸しとリスク管理PDCAの深化を図ります。また、具体的な事業への影響が経営戦略リスクに相当するものについては、経営戦略リスクへの対応策として取り組みます。 中~高
人権リスク
  • 従業員の人権を侵害するさまざまな事象に会社が適切に対応しない場合、従業員の維持・採用に支障をきたし事業継続が困難になる可能性
  • サプライチェーン上に存在する人権問題に適切に対応できない場合、事業継続に支障をきたす可能性
5 人財流出につながり得る人権に係るリスクを把 握し、体系的に管理します。また、取引先による法令遵守にとどまらず、ソフトロー対応状況までを 、当社の一貫した方針・ガイドラインのもとに把握し管理するものとし、取引先のコンプライアンス管理を強化します。 中~高
情報セキュリティリスク
  • 予期せぬ情報漏洩により競争力を損なう、あるいは、法に抵触し制裁金の対象となる可能性
  • サイバー攻撃により事業継続に支障をきたす、また、重大な情報漏洩、身代金請求につながる可能性
5 情報資産・営業秘密の管理・移転、サイバー攻撃について、物理的脅威・脆弱性、技術的脅威・脆弱性、人的脅威・脆弱性の観点でリスク対応を図り、情報セキュリティガバナンス体制・プロセスの構築を進めるものとし、情報セキュリティ部会を通じて具体的取り組みを推進します。 中~高
地政学リスク
  • 紛争やテロにより当社グループ社員の人命・資産が脅かされる、あるいは、物流・調達・インフラの寸断により事業継続に支障をきたす可能性
5 グローバルベースでいずれの事業拠点が巻き込まれても支援できるよう平時から緊急対応体制を整備するものとし、グローバル危機管理体制整備と訓練を実施します。
安全リスク
  • 職場の安全確保が十分でない場合、操業の中断、生産性の低下が起き、従業員の維持・新規確保が困難となることで、事業性が悪化したり、事業継続ができなくなる可能性
5 帝人グループの安全基準を確実に各拠点に浸透し、事故が多発している拠点に対して全社的な支援を行います。
  • *マテリアリティ 1:気候変動の緩和と適応、2:サーキュラーエコノミーの実現、3:人と地域社会の安心・安全の確保、4:人々の健康で快適な暮らしの実現、5:持続可能な経営基盤のさらなる強化

業務運営リスクマネジメントのグループ推進体制

「業務運営リスク」についてはサステナビリティ管掌が担当し、以下の体制のもとで海外を含むグループ全体の業務運営リスクの管理を行います。各事業本部、グループ会社等が行う個別のリスク管理状況を全社横断的に把握・確認するとともに、グループ全体で統一的な対応指針が必要なリスクへの対応を推進しています。

業務運営リスクマネジメント活動

2022年度は、帝人グループとして重点的に取り組む必要があるリスクである「グループ重大リスク」として、引き続き「気候変動リスク」「人権リスク」「情報セキュリティリスク」「地政学リスク」「安全リスク」に注力し、各管掌を中心に対応方針、対応策の展開を開始しました。

また、通常のリスクマネジメントプロセスとして、リスクアセスメント(7-9月)およびサステナビリティ管掌レビュー(10月)を通じて、各事業・各機能管掌における重大リスク項目のマネジメント状況を把握し、確実な対応が取れていることを確認しています。これらの活動は年2回のTRMコミティーでのレビューを経て取締役会へ報告されています。

このほか、リスクマネジメント関連規程・体制の体系整備を進めています。従来のリスクマネジメント規程に含まれていた帝人グループのリスクマネジメントの基本概念を「グループリスクマネジメント規程」にまとめ、帝人グループ共通のリスクアセスメント手法や危機管理運用手順などを「リスクマネジメント実施規則」として明確化し、下位規則として再整備しました。さらにグループ全体のリスクマネジメントの体制として、内部統制の統合的フレームワークの「3つの防衛線」*を導入しています。

  • *第1の防衛線(事業本部・グループ会社など):基本的に事業本部・グループ会社はリスクの所有者としてリスク対応を行う。
    第2の防衛線(管掌・CSR委員会・各部会・地域統轄など):基本的にグループ重大リスク等の予防・低減に向け、第1の防衛線に対する支援・モニタリングを行う。
    第3の防衛線(経営監査部):第1・第2の防衛線から独立した立場として、リスクマネジメントの合理的な助言・勧告などを提供する。

事業継続計画(BCP)、事業継続マネジメント(BCM)の状況

事業継続マネジメントの状況

帝人グループでは、大規模災害や不測の事態が生じた場合でも事業を継続できるよう、また万一中断しても可能な限り短期間で再開することができるよう、事業継続計画を策定し、事業継続マネジメントに取り組んでいます。2022年度は、COVID-19の拡大を経て定着してきたリモートワーク環境下でも速やかに対応体制を取るための検討を開始しました。

自然災害への対応

2022年度における国内での地震や風水害による帝人グループ関係者、設備への被害報告はありませんでした。2022年9月に発生した台風14号により一部事業所で浸水や強風による屋根板等の破損がありましたが、人的被害や操業への影響はありませんでした。在宅医療を支えるヘルスケア事業では、被害が大きかった地区で酸素濃縮器使用患者の安否確認や予備ボンベ配送などを行いました。

業務継続訓練の実施

事業継続マネジメント(BCM)の一環として、国内各事業所や研究所などでは、毎年、防災訓練と地震避難訓練を実施しています。2022年度は、広域大規模災害を想定した本社における緊急対応の訓練を実施しました。

安否確認訓練

緊急時の従業員安否確認訓練として、帝人グループのインフォコム(株)の緊急時安否確認システム「エマージェンシーコール(EMC)」を活用した国内通報訓練を毎年実施しています。